映画の中のレコード店⑨

 レコード店のシーンが撮られたのは、映画「ノルウェイの森」のセット撮影初日となった09年6月10日とその翌日11日の2日間でした。レコード協力してもらった都内のコレクター二人も初日は撮影見学に招待し、広島より出向きました。東宝スタジオに到着しセットされたレコード店内に入った瞬間、そのファンタジックに吟味された雰囲気に圧倒され、「わ~、君達も頑張ってるなあ!」という思いが込み上げてきました。優秀な美術スタッフが関わっているのですから当然だったわけで、今から考えたら世間知らずもはなはだしいのですが(恥ずかしい~!!)、とにかく“レコードに関したら万全を期した”という自負があったのでしょう。






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four freshmenotis redding
68年春のシーンで使用したLP


 トラン監督を紹介され、「ナイス・ミーチュー」と声をかけると、「Daiwa Houchu~」と表情一つ変えず返事が返ってくるほどの日本通だった、というのは真っ赤なウソで、その純真無垢とでも表現したくなるような優しい笑顔の「Nice Meet You」には感動すら覚えました。ところがいざ撮影に入るとその優しさは棚上げされ、決して妥協を許さない映像美の鬼才と化すのです。閃きで急遽脚本を変えることもあり、指示内容から危険性を察したスタッフから「割れてもいいレコードはないですか?」と要求されたりもしました。ワタナベが壁面に黛ジュン・弘田三枝子・小川知子といった歌謡ポップス系のLPを飾るシーンでの指示の素早さと鋭さは、側で見ていて目を見張るものがありました。ただレコードのレイアウトに監督が指示したのは2日間を通してそのシーンのみで、それ以外はすべて私がやりました。でも冷静に考え直してみたら、当初映画製作会社からはレコードの提供は依頼されたものの、レイアウトまでははっきりと指示されていなかったはずです。監督の小物等への拘り(撮影中に背景のコップが気に入らず撮影をストップして買い替えに行かせた「コップ待ち」というのがあったらしい)にピリピリしていたスタッフが、帯付LPの目途が立ち高額保険を掛けたレコードの現物供給を受けたりしているうちに、本来小道具でしかないレコードを貴重品として見るように変わって行ったのではないでしょうか。送ったレコードの扱いにも、現場のスタッフが慎重を期している雰囲気が伝わってきました。スタジオ入りした私がレイアウトに立ち会うことは、もはや当然の流れのようになっていました。






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solomon burkejeff beck
69年春のシーンで使用したLP
撮影中に「何かレコードかけて下さい」と頼まれ、たまたま目の前の
カウンターにあった「ジェフ・ベック登場」に針を置いた細野店長。
ブリティッシュ・ロックであろうとも、LPを持つ姿はサマになるんだなあ。



 棚のボリューム部分のLPは都内のレコード店で調達してありましたが、日本の新譜のレコード店と考えれば、私にはストックが少ないように感じました。「ハイ・フィデリティー」とかの映画の影響かもしれませんが、監督やスタッフ・美術担当の判断や拘りには当然ノー・タッチです。背景のLPに関しても同様で、私は与えられたシーンに見合うLPをセレクトしレイアウトしただけです。ただ“あり得ない”ことだけは避けたかったので、パワーハウスやマウンテン等、スタッフが準備し棚に入っていたLP仕切り板で不自然なものは勝手に外しました。パワーハウスはLPが1枚しか出ておらず、マウンテンのLPは日本では71年以降に発売されています(日本盤の発売年度に関しては、ライターでも本国の発売年度と混同している例をよく見かけます)。

  
 撮影中に監督からレコードが光りやすいのでビニールを外せないかと頼まれましたが、即座に「ノー!」と答えました。だってビニールを外すなんてリアリティー無さ過ぎでしょ?(本音はジャケット(特に帯)が痛むのが怖かっただけなんですけど)。私の意思の固さを察したのか、監督からはそれ以上何も言われませんでした。私の我が儘で現物を使い、結果的に撮影の進行に遅れが出て迷惑をかけたかもしれません。でも監督がレコード店のセットを気に入り、脚本を変えてまでしてレコード店のシーンを二つ増やしたと聞いたときは、正直小躍りしたい気分でした(直子がレコード店で待っているシーンとかもあったのです)。





eazy beats
中学時代の愛聴盤

bobby womack
そういえば、映画のお店にはシングルなかったなあ。
60年代のシングル仕切リ板なら、ビートルズ・DC5・
植木等・ピーナッツ等たくさんあるんだけど・・。



 60年代末の日本の小物やファッションが、その時代を知らない若い人達にどう映るのか。新鮮でシャレて見えるものもあるでしょうし、ダサくて野暮ったく感じるものもあるでしょう。私が小物の一部としてのレコードをチョイスするのに心掛けたのはリアリズムで、あくまでメインは当時の一般的なレコードです。ただレア盤も交えないとファンタジックな60年代の全貌は描けない気がしました。実際買取に立ち会った全国のレコード店のデッドストックに、とんでもないレア盤が混じっているのをこれまで何度も見てきました。私も中学生の時、町内のちっちゃなレコード店にあったイージービーツのシングルを買ったりしてます。「ローマ法王とマリファナ」の帯付を、瀬戸内の小島のレコード店で当時購入した人から買取したこともあります。まして新宿のレコード店なら、何があっても不思議ではないでしょう。重要なレア盤の提供に奔走したわけがそこにあります。残念ながら、脚本通りに放映したら3時間以上にもなる映像を大幅にカットする必要が起こり、レコード店のシーンもそのほとんどがお蔵入りせざるを得なくなりました。どのLPが最終的にピック・アップされるかは、私にとっても大きな賭けでもありました。結果的に監督やスタッフによってチョイスされたLPはそれなりにポイントを踏まえていたと思うし、レコード店の映像に関しても、監督の主張する「映画言語」は少なくとも私には届いたような気がします。








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thisboy1994


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 1952年広島県安芸津町生まれ。獅子座のAB型。ビートルズをたまにしか聴かないビートルズ・フリーク。
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